逢魔の扉を前にして

       “邂逅”


 おまけというか蛇足というか



撮影で出向いた郊外のお屋敷にて、
何とも不思議な体験をした4人の俳優さんたちだが、
実際の時間はほんの一瞬ほどしか経過はしていなかったようで。
戻ってすぐは放心状態、
それでも撮影スタッフが呼びに来たのへ我に返ると、
何事もなかったかのように本来の日常へと立ち返る。
さすがに敦は傷心も大きかろうと皆で案じたが、
今は何も見えない左手へ、時々大事そうに触れてはこっそりと微笑んでいるので、
ああそういうことか…と、ちょっと安心してもいる兄様たちで。


  ……で。



青々とした晴天が広がる蒼穹へと突き刺さりそうな摩天楼の、その天辺から。
ふわりと軽やかに零れ落ちたその身が、
ぐんぐんと加速をつけて落ちてゆく先で。
パカリと口を開けているおぞましき邪妖の口へ、
引き込まれかけたその刹那、

 「……哈っ!」

裂帛の気合いとともに、手のひらへと滑り出したものがある。
腕の長さそのままの棒杖で、
すべり出し切るすんでで ぱしっと端を掴み止め、
ぶんと加速をつけて振り抜けば、
短い鎖で関節のように連なってた合間が引っ張られ、がっしりした棍棒状に固まった。
そこから、落下の加速や重力にも関係ないよな軽やかさ、
手のひらの上でぐるりと躍らせて回転させると、
それもまた新たな加速という力として乗せた攻撃、
魚のようなナマズのような邪妖の大きな顔めがけて、
鋭い一閃として ぱぱぱぱぱんっと叩きつけられている。
宙を舞うような奇跡の能力があるはずもなく、
単に落下しつつの、中空での体術であり。
敵を殴りつけた反動も生かし、
すぐ傍らに沿うている格好のビルの壁を足場に蹴りつけ、
落下し続ける体勢を調整すると、
足からの落下へ方向を変えたそのまま、別の邪妖の鼻先を蹴って
やや出っ張っていたテラスへ着地し、
棒杖をバトンのようにぶん回して、弓術の残心のように姿勢をただす心憎さよ。

 「はい、オッケイですっ。」

スタジオ内ならプロジェクトマッピングを使って敵を映し出すなんて手も使うが、
今回は屋外で、しかも結構な高度があったため、
此処に敵がいますよという位置や動きをポインターで指示する格好での撮影となり。
落下の途中で“こうやってこう…”という組み立てを
前もってシュミレーションした上での一連のアクションではあったとはいえ、
その身を何の支えもないまま宙へと躍らせる演技はそうそうこなせるものではなかろう。
危険だからと低層空間でこなすには大きな動きが収まりきらないので、
どうしても20mは高さを設けたセットでのそれとなり。
目立たない格好とはいえワイヤーの命綱をつけていても、
身ごなしがついてこなければ意味はないほどの途轍もないよな活劇を、

 「はぁ、面白かった。」

バンジージャンプやスカイダイビングのよな感覚になっているものか、
スタッフの皆様が、タオルじゃミネラルウォーターじゃと、
様々なアイテムを手にして救護班のように寄ってたかってしてくださるのへ、
にぱーっと朗らかに笑って、楽しげなお声で返す剛の者。
一応、手足や首や背中などなどをトレーナーの人に確認してもらい、
数台分のカメラであちこちから撮影した映像を確認。
それは鮮やかで冴えた演技を皆で見守り、
今回の目玉でもあるカット、
大成功ですとの太鼓判をいただいたのへ嬉しそうに笑う少年で。
さすがに汗も出てのこと、少し伸ばした淡色の髪を頬にわずかにくっつけたまま
マネージャーさんや付き人の方が待つタープまで戻ってきたところ、

「よ、一発OKだったな。」

別の区画で山盛りの咒獣を薙ぎ倒す乱闘シーンを収録していた
赤毛の兄様がにやりと笑い、

「必ず大仕掛けがあるのは大変だねぇ。」

知将キャラなのに不公平なくということか、それともこれもファンサなのか、
今回は伸縮式の警棒を得物に、取り囲まれた窮地からの鮮やかな脱出という擬斗が組まれていた
長身イケメンさんがにこやかに笑う。そして、

「ワイヤーは苦手だと言っていたのに、随分とこなせていたな。」

術式での薙ぎ払いと、薙刀のような刃付きの長柄での切結びを織り交ぜた、
なかなか複雑なアクションをこなさねばならなかったらしい、
劇場版では敵陣からの単独脱出という役回りをおまけされていた黒髪のちぃ兄さまが、
どこまでがメイクなのか判りにくい痣だらけの腕を袖に仕舞いつつ褒めてくれたが、

「いや、それより龍くん手当てしたの ?!」

痣だけじゃないでしょ、擦り傷とか洗わないとと、
表情を驚愕へと一気に弾けさせつつ、
案じたその腕を引っ掴んで、洗い場まで引っ張っていこうとするから。

 「…いや、そこは痛い。」
 「あっっ、ごめんなさい〜〜っ!」
 「冗談だ。そんな下手を打ってはない。」
 「う〜〜〜〜っ。///////」

にぎにぎしいほど微笑ましい皆様なところは変わりない模様。

  世にも不思議な体験をした話は、当然のことながら彼らだけの特別な秘密で。

「暁くんって、案外と…っていうと失礼かもだけど、すごいやさしいんですよ。」

自分だけ兄様のそばに居られるのが申し訳ないと思うのか、
頻繁に連絡をくれて、その時はいつも翠龍様が同席しているのだとか。
向こうはどうやって視聴しているのか知らないが、
こちらはパソコンの画面へと姿も声も投影できており、
いわば次界を超えたビデオ通話みたいなもの。
元気にしているか、お仲間とは楽しく過ごしているかと、
当たり障りのない話しかしてはないが、
敦もそれがとても嬉しいそうで、

 『あ、ビデオ通話したなって判りますからね。』

要らぬ混乱を避けるためにと匿名で演じている、
特撮ものの “バイオスター”の動きがキレッキレで、
ああ、昨夜あたり連絡があったんだなと芥川には判るらしい。

 翠龍様が、元居た次界に残してきた格好の小さな付喪神たちへと
 時々心配になってらっしゃるそうで、
 自分と変わらぬ格の、咒力が強い子らもいるので、
 代わりに見守っててくれようとは思うのだが、
 それだと責任がなさすぎるよな気もなさるものか。
 敦と会話が出来ているように、何とか意思の疎通が出来たらなぁと思っているらしい。

 「出来んこたぁねぇが」

 とは、槇の中将様がこっそり鎮冥さんにこぼした一言で。
 ただ、今すぐはだめだ。
 向こうの大馬鹿どもにきっちり困らせの重圧を食らわせんとな。
 あいつに頼っておきながらこっちへ放り出した馬鹿やろどもが、
 しっかりと周囲からやらかしを責められて
 生きた心地がせんほどがっつり後悔せんと意味がない。
 けだものどもだから時間もたんとかかろうよと、
 鼻息も荒く怒っておいで。

 一方、ご当地の頼もしき荒武神様方は、
 そんな馬鹿をした一族を絞めている傍らで、

 “何でもない時はふにゃふにゃ柔らかい佇まいなお人だったからなぁ。”

 そこまで頼りないというのではなく、
 理知的で冴えたお顔してらしたのだが、
 淡色の見栄えそのまま、優しいばかりな存在に見えんこともなく。
 自分たちにはそこがまた惹かれるところだったのに、(もしもし?)
 そんな風情だったのをどう解釈したものか。
 おおかた、何かしらの神通力だけ持っている身と誤解していた荒くれの阿呆どもが、
 生贄気取りで負世界の軍団に放り出したりしやがって。

な、何かちょっと不安なままな部分も…あるよなないよな?笑
で。
何でそんな詳細まで判っているのかというと…。



   ◇◇


先入観が出来ると困るということで、
太宰や中也は原作まんがは以前も今も読んではないらしく。
芥川は本誌が手元にあれば目を通す程度で、
敦はもともと好きな漫画だったので読んではいたが、
最近は忙しいのでつい忘れていたら話が進んでたということが多いらしい。
本編は終了しており、今は後日談ぽい番外編のエピソードが時々掲載されているのらしく。
それぞれのキャラの日常とか、4コマ形式などで連載中。
劇場版のシナリオを描き下ろしたコミカライズもあったりし、
人気はなかなか衰えてないようで。
活動の方はすでに他のドラマなどへの出演へ移行しているというに、
書店主催のトークショーなどに呼ばれることも少なくはない。
そんな中、次に展開されるのは、

 「……え?」

神獣界から転送されてきた身であるらしい暁少年の
スピンオフエピソードを短期連載という格好で公開するらしく。
しかも、単発でドラマ化というあおりがくっついており。

 「え?え?」

ドラマ化云々はとりあえず置くとして、
これってまさか、いやいやそんなことってと。
何だかいろいろと情報を精査し合ってみたいと、
4人が示し合わせて中也の住まいへと集合していたりする。
持ち寄った菓子やらつまみをテーブルへと広げ、
近況をちょっとした挨拶代わりに告げ合ってから…。

「翠龍氏のキャスト、知ってるかい?」
「え? もう決まってるんですか?」

ていうか、それってもしかしなくとも、
自分たちが先行して?体験したあの出来事なんだろうか。
訳知り顔になってた太宰だったのは、

「あの場ではちらっとしか まみえちゃあいなかったけど。」

あれ?そういやあのお人って、私、前にも覚えがあるんだけど…と
そんな気づきがあったため、自分からも探ってはいたらしく。
ちょっと大きめの宣材写真を挟んだクリアファイルを出して見せ、

「ビジュアルがね、そのまんまってほど似てるんだ。」
「…ホントだ。」
「ああ、そっくりだな。」

何の感情も載せない醒めた表情なのが、作り物っぽい印象を受けるほどに精緻な美貌。
切れ長の双眸は宝珠のような透き通った紫の瞳を含み、
柔らかな線で描かれた鼻梁や、頬の優しい隆起がそれは嫋やか。
背中を覆うほどの髪は自前だそうで、
役作りのためか淡い色合いなのが、線の細い風貌によく似合ってもいて。

「無表情なのがちょっと怖いけど…。」

敦にしてみれば、優しく微笑んでくれるお顔しか知らないものだから、
どこかとげとげしくさえ見える冷淡なお顔なのへの引っ掛かりもあるらしいけれど。

「日本では活動してないところが、むしろ好都合だったようで。」

戸籍からして欧州の人であるらしく、
日本では公開されてはない、
欧州発の映画やドラマの出演を何作かこなしておいでで。
幻想的な叙述SFだったり、やや懐古的な世界が舞台の推理ものだったり、
彼らが演じてきた作品とは微妙に畑の異なるテイストのものばかりじゃああったが、

「エキセントリックな風貌だっていうのが受けてたらしくて。」

自分たちからすれば日本人離れして見えた面差しだったが、
本場の異国では静謐が過ぎて、謎の多い役柄へと引っ張りだこになりつつあるそうで。

「こうまでの風貌と神秘的な雰囲気と、
 実は活劇の出てくる作品も怖気もせずにこなしてらっしゃるという、
 例の作品に出ていただくのに、これ以上はない好条件のお人だったらしくてな。」

 「………で。敦、平常心保てそうか?」
 「うわぁあん。//////」






to be continued.(26.05.12.〜) ??




     〜 Fine 〜    26.06.13.



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 *シグマさんと面識があるのは太宰さんと敦くんだけじゃあなかったか。
  空港に居たものが、ゴーゴリさんの異能でムルソーまで運ばれたんだっけ? 22巻
  中也さんは昏倒しきってるのとは対面?してたかな?

  (ネタばれ注意)

  異能力
   相手に触れる事で、
   「自分の知識の中で相手が最も知りたい情報」と
   「相手の知識の中で自分が最も知りたい情報」を交換する。


「駄目だ!「何の為に生まれたのか判らなかった」なんて
 そんなのを最後の言葉にして人は死んじゃいけないんだ!」
「……優しいな、君は。
 だがいいんだ。凡人なりにやれるだけはやった」

敦くんとのこのやり取りがどうしても忘れられなくて、
この人どこかで出したいと秘かに思ってたんですよね。(笑)
完全なわがまま脚本ですいません。